どうぞ、ここで恋に落ちて
「別に私、樋泉さんにメロメロなわけじゃないですから」
「またまたぁ〜。さっきだって、クレーム付けに来た母親から助けられてキュンキュンしたんでしょ?」
伊瀬さんがせっかくのかわいい顔を歪め、ニヤニヤとなんだか下世話な笑みを浮かべている。
まったく、失礼な!
私が樋泉さんへ向ける気持ちは100%、純粋な憧れと尊敬なんだって、いつも言ってるのに。
「だから、それは……」
「こら! そこのふたり。レジの前でムダ話をしない!」
ムキになって反論しようとすると、静かだけど鋭く迫力のある女性の声にピシャリと遮られて、私たちは同時に竦み上がった。
「あ、やべ、俺、棚の整理の途中なんだった」
伊瀬さんは目を泳がせながらわざとらしく呟いて、レジの奥の方にいた私を残してスタコラと逃げて行ってしまう。
私たちを注意した先輩が、そんな伊瀬さんの後ろ姿をジトーッと睨み、呆れたようにため息をつくと、彼の代わりに私の隣のレジに立った。