どうぞ、ここで恋に落ちて
樋泉さんに私を放す気がないってことはなんとなく伝わってきたから、せめてもの気休めに俯いたまま両手で顔を覆って隠した。
「古都、大丈夫だから。何があったの?」
樋泉さんは私の前髪を掻き分け、おでこに唇を寄せながら囁く。
「この前も泣きそうになってたし……俺、うまく伝えられなくて頼りないところあるかもしれないけど、古都が泣きたいときには側にいられる男でありたいんだ」
彼のこの誠実さが偽りのないものだと知っているから、余計に今の自分が恥ずかしくなる。
私の自信のなさも、樋泉さんへの勝手な嫉妬も、そんな私に樋泉さんがなかなか無防備な姿を見せてくれないのも、みんな自分のせいなのに。
私は次々に襲ってくる自己嫌悪に溺れそうになって、ブンブンと勢いよく首を振った。
しっかりしなきゃ。
このままじゃ、どんどん樋泉さんには似合わない女の子になっちゃうよ。
すると慰めるような樋泉さんのキスがピタリと止み、背中をさする手が強張った。
「古都、俺ってそんなに……」
どこか愕然とした声に、手のひらの中から顔を上げる。
そして私が樋泉さんのアーモンド型の双眸を探し当てるより一瞬早く、テーブルの上にあった彼の携帯から着信音が鳴り響いた。