どうぞ、ここで恋に落ちて
キョトンとして隣に座る樋泉さんを見上げると、彼は握った手に少し力を込めて、私を安心させるように優しく微笑んだ。
……『すぐ戻るから』って、そういうことなの?
樋泉さんってば、過保護すぎですよ!
彼のあまりの甘やかしっぷりがくすぐったくて、アーモンド型の瞳から繰り出されるとろけそうなほどの視線から慌てて目を逸らす。
さっきとは別の意味の羞恥から頬が熱くなり、胸がきゅーっと音を立てて締め付けられるのを感じた。
「はい、樋泉です。……いえ、大丈夫です」
今の私はとても人前に出られる顔じゃないと思うのに、一方隣の樋泉さんはまるでひとりでコーヒーを飲んで過ごしていたみたいに穏やかで、ちっとも動揺なんてしてない。
私は繋いだ手から暴れる脈の速さが伝わってしまわないように、小さく深呼吸をした。
あー、ドキドキした。
樋泉さんってば『才能ないかも』なんて言ってたけど、天然の溺愛資質なんじゃないかな。
樋泉さんへの気持ちがただの憧れだと思っていた頃とは違って、恋人としてまっすぐに向けられる彼の甘くて柔らかい誠実さには、とてもじゃないけど心臓がもちそうにない。
「え……そんな! 何かあったんですか?」
ひとり熱を冷まそうと必死になっていると、隣で電話中の樋泉さんの切羽詰まった声で、急に意識を引き戻された。