どうぞ、ここで恋に落ちて
「もう、伊瀬くんってば、ほんと調子がいいんだから」
「咲さん……すみません」
私はすぐに前に向き直り、店内のお客様の迷惑にならないように小さな声で謝る。
今のところお客様がレジに向かってくる気配はないので、手元にあった一期書店のオリジナルブックカバーを折る作業を始めた。
雑誌や実用書フロアの担当者である白石咲さんは、パート勤務だけど伊瀬さんと私の先輩にあたる人で、小学生になる息子さんがいる。
鎖骨の下まであるふんわりした髪に、垂れ目で色白で細身な咲さんはとっても美人さんで、オマケにほんのちょっぴり毒舌な頼りになる先輩。
10歳年上の旦那さまは防衛省内勤のエリートらしいけど、咲さん曰く『私の尻に敷かれてる』って……。
か弱そうな見た目に反して意外と肝っ玉キャラで、さすがの伊瀬さんも咲さんには敵わないみたい。
「古都ちゃん、レジは私が代わるから、店長に声かけてちょっと休憩してきていいよ。さっきは対応ありがとね」
「えっ! そ、そんな、いいです!」
さっきのは、私じゃなくて樋泉さんが対応してくれたようなものだもん。