どうぞ、ここで恋に落ちて
「あのね、古都ちゃん! あの、えっとね……その……」
最初は私も目を丸くするくらい大きくてハッキリした声だったのに、どんどん尻すぼみに小さくなっていく。
終いに色葉ちゃんは視線を泳がせて俯き、白い肌を赤く染めながら蚊のなくように呟いた。
「この前古都ちゃんがオススメしてくれた本、あまり読んだことないジャンルだったけど、すごくおもしろかったの。それで、あの……」
「あ、似たような本、いくつか探そうか? 同じ作者の小説もちょっとなら置いてあるよ」
なんだか恥ずかしそうにする色葉ちゃんは、今にも泣きそうになりながらブンブンと首を振る。
「そ、そうじゃなくてね、あの人は、好きなのかな……って思って、その……」
「え?」
"あの人"って、誰のこと?
色葉ちゃんはいつも控えめだけど賢くて落ち着いた女の子なのに、今日はソワソワしているし話の要領も掴めない。
私はうーんと首を捻り、前回お店を訪れた色葉ちゃんにオススメの本を紹介したときのことに考えを巡らせた。
そこでハッとあることを思い出して、頭の中にひとりの男の子が浮かぶ。
「あっ、もしかして、橘くんのこと?」