どうぞ、ここで恋に落ちて
路地を進むにつれて半信半疑になっていく私だったけど、なんとか目当ての看板を見つけてホッとした。
ひっそりと佇むそのお店のドアをそっと押し開ける。
「お、おじゃまします」
月曜の夜だからなのか、店内は静かで賑わった気配がなく、その代わりに柔らかく明るめの照明が灯されていて、バーというよりは小さなホームパーティーに招かれたような気分になった。
前回伊瀬さんと来たときはお洒落で大人っぽい雰囲気のお店だと思ったのに、こんなにイメージが変わるなんて、やっぱり不思議なバーであることには変わりないみたい。
「どうぞ」
居酒屋にもバーにもひとりで入ったことはないので、入口で躊躇していると、お店の中から声をかけられた。
カウンターに立って私に微笑みかけるのは、前回と違わず、『プリマヴェーラ』のマスターだ。
明るい光の下で見るマスターは、シェイカーを振っていても和装の似合いそうな端正な顔立ちで、前に会ったときよりも優しくて親しみやすいお兄さんオーラが増していた。
お店の中に入っていくと、マスターの前のカウンター席に髪の長い、背筋のシャンとした女の人が座っているのが目に入る。
他にお客さんはいないみたい。