どうぞ、ここで恋に落ちて
樋泉さんが助けてくれたのは嬉しかったし、あんな風に丸く収めてくれて感謝してるけど、結局私ひとりでは対処できなかったんだ。
そのことに、悔しさがないわけはない。
私は慌てて首を振ったけれど、ペシッとお尻を叩かれてレジから追い出されてしまった。
「いいから、いいから! お昼も全然休憩してないでしょ? 店長もさっき、気にしてたから」
「で、でも……」
咲さんは渋る私をしっしと手で追い払う。
ぞんざいな仕草だけど、本当は面倒見がよくて優しい咲さんだから、きっと私のことを気にかけて言ってくれているのだろう。
「……すみません、咲さん。今度はもっと上手く対応できるようにがんばります。ありがとうございます」
私は咲さんの優しさに甘えることにして、ぺこりと頭を下げてその場を離れた。
約70坪の一期書店には出入り口がひとつしかない。
店に入って左手にレジカウンターがあり、正面から右側にはひと月ごとに作り変えるイベントコーナーがある。
奥へ進むと大雑把に左側がコミックやライトノベル、文芸書などのコーナーで、右側が雑誌や専門・実用書の棚という並びだ。