どうぞ、ここで恋に落ちて
そんなことを考えながらほろ酔い気分で一杯目のカクテルを飲み干そうと、グラスに口を付けたときだった。
「ところであなた、本当に洋太くんの恋人なの?」
それまで口数の少なかったすずか先生が私に向き直り、突然に切り出した。
驚いた私は動揺し、急いでお酒を飲み下そうとしてむせる。
マスターが慌ててお水を用意してくれた。
冷たい水を喉に流し込み、涙目ですずか先生の強い視線に向き合う。
「あの、樋泉さんとは、お付き合いさせていただいてます」
すずか先生の真剣な表情に、私も思わず背筋をシャンと伸ばした。
立場は違うけれど、仕事中のスーパーマンみたいな樋泉さんを知っていて、同じように彼に想いを寄せる女の人だ。
作家として既に活躍していて美人で自信のあるすずか先生のほうがずっとお似合いなんじゃないかと弱気になってしまうけど、少なくとも今樋泉さんの恋人なのは私なんだから、堂々としなくてはいけない。
顔を上げてジッと視線を交えていると、すずか先生は不意にプイッとそっぽを向いてカウンターに向き直った。
「ま、私の洋太くんを観察する目と勘は正しかったってことね」
「へえー、そっか。彼もがんばったんだなあ」