どうぞ、ここで恋に落ちて
ひとしきり泣いたと思ったら、今度は頬を膨らませて怒っているみたい。
第一印象では大人っぽい落ち着いた女性だと思っていたけど、不貞腐れたり拗ねたり泣いたり怒ったり、すごく素直で正直な人なのかも。
私が今夜見ているのは彼女の短所とも言うべき側面かもしれないのに、知るほどにどんどん魅力的に思えてくる。
私と樋泉さんがこういう関係を築いていくには、もっと素直にならなきゃいけないんだ。
お互いを信頼して飾らずにいることが、きっとお互いをより魅力的にする。
私はなんだかジーンと感動しながら千春子さんの話を聞いていたけど、彼女は怒った勢いのまま私をキッと睨んで言った。
「あなた、洋太くんを幸せにしなかったら許さないから」
「ふたりが上手くいかないことを願わないところが、千春子の憎めないところだね」
マスターはからかうように言って、千春子さんの置いたワイングラスを片付ける。
もうお代わりは出さないつもりらしい。
「仕方ないでしょ。洋太くんが彼女のことを放すつもりがないのは見ててわかるの。私が言うんだから間違いないわ」
フンッと腕組みをして妙に自信ありげに言う千春子さんに、なんとも言えない恥ずかしさが込み上げる。