どうぞ、ここで恋に落ちて

スタッフは店長からアルバイトまで、みんな白いシャツに黒いパンツ、そして濃い紺色のエプロンを着用している。

指定の焦げ茶色の革靴がキュッと音を立てて床を踏んだ。


「古都ちゃん、おつかれ。また来ちゃった」


ミエル文庫が置いてある棚の前を通ってバックヤードへ店長を探しに行こうとすると、ふと後ろから声をかけられて振り向く。


「あ、乃木さん! こんばんは。今日はもうお仕事終わったんですか?」

「うん、古都ちゃんに会いたかったから、就業時間キッチリで出て来た」


へへッと白い歯を見せて笑う乃木さんは、最近お店によく顔を出してくれているサラリーマン。

たぶん、私と同年代くらいなんだと思う。

明るい茶髪に尖った八重歯が印象的で、いつもニコニコと気軽に話しかけてくれる。

会社がこの近くにあって、春町駅を利用しているから、ちょうど帰り道なんだとか。


あまり読書量は多くないけれど、せっかく通勤路に書店があるから、もっと本を読むようにしたいっておっしゃっていた。

これから読書を好きになりたいって思っている人が、書店員としての私を慕っておすすめを聞いてくれるのは、すごく嬉しいんだけど……。
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