どうぞ、ここで恋に落ちて
そんなわけで、ローテーブルの周りに座り込んだ私たちは、お互いにソワソワしながら土曜日の夜以降の出来事を報告し合った。
樋泉さんがあの後千春子さんに会いに行って、サイン会に出てくれるようお願いしたこと。
千春子さんが自分を好きだなんて半信半疑で、「思い上がりなら申し訳ないから叩いてくれていいし、もしも勘違いでなくても気持ちには応えられないから、今まで気付かなかったお詫びに叩いてくれていい」と言ったこと。
本当に彼女ができたのかと問われて、はっきりと認めたこと。
千春子さんは樋泉さんを叩くことも詰ることもせずに、サイン会への出席拒否を撤回したこと。
そして私も、来月のイベントに焦りを感じて、樋泉さんにおかしな嫉妬をしていたことや、今夜『プリマヴェーラ』で千春子さんに会ったことを話した。
千春子さんから先に事の顛末を聞いていたことを謝ると、樋泉さんは笑って首を振った。
「俺の方こそなかなか連絡できなくてごめん。古都に愛想尽かされたんじゃないかと思うと、怖くて。俺のこと、その……ヘタレだって」
「あっ」
樋泉さんがシュンとして大袈裟に肩を落とすから、私は慌てて言い訳をする。
「ご、ごめんなさい、その、違くて。それはなんていうか、樋泉さんのほんの一部だし、逆にチャームポイントっていうか、えっと……」