どうぞ、ここで恋に落ちて

乃木さんはいつもこんな調子で、『古都ちゃんに会いたかったから』なんてさらりと言われると、反応に困ってしまう。

私は曖昧に笑って首を傾げた。


「今日はどんな本をお探しですか?」

「そうだなあ。じゃあ、古都ちゃんのタイプの男が登場する小説で」


ヘラッと笑った乃木さんはさり気なく私の隣に並ぶと、文庫本コーナーへ誘導するように歩き出す。


「ねえねえ、本屋さんって土日も休みじゃないし忙しいでしょ? 次のお休みはいつなの?」


こんなふうにシフトを聞かれたり、仕事の上がり時間を聞かれたりすることもたまにある。

それも何度か続けば、彼がただ単に世間話のひとつとして聞いているわけではないってことくらい、わかっているつもりだ。

そういうとき、どう答えていいのかわからなくて……。


「えーっと、そうなんですよ。なかなかお休みとれなくて。でも私、この仕事が好きなので」


恋愛の経験値も、書店員としての経験値もまだまだ浅い私では、こうしてぎこちなく話を逸らすのが精一杯。


「そっかあ、大変だね。じゃあ休み決まったら教えてよ」
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