どうぞ、ここで恋に落ちて
「ユカちゃんね、ママにはこれがいいと思うな」
そう言って母と娘はイベントコーナーに並ぶ本をああでもないこうでもないと選び合い、ときどき顔を見合わせて笑っている。
時間をかけて熱心にお互いが喜びそうな本をオススメし合う姿は、ちょっと思いがけないものだった。
「ああいう場をつくることをこっそりお手伝いできるんだから、私たちは幸せ者だね」
ジーンと感動して目頭が熱くなる私に、店長がポケットティッシュを渡してくれたのだった。
夕方になって常備本を入れ替えるために店内を歩いていると、厚紙を手にして棚を見上げる色葉ちゃんを見つけた。
もう夏休みも終わったことだし、セーラー服を着ているから、学校の帰りなのかな。
服装は見慣れた中学の制服だけど、いつも三つ編みお下げにしていた長い髪を今日は背中に流している。
色葉ちゃんがもっている厚紙は、イベントコーナーの企画のうちのひとつだった。
お客様にはなるべく偶然の出会いを体験して、大好きな一冊と巡り合って欲しい。
だからイベントコーナーには当初飾る予定だった本の内容を紹介するポップはひとつも置かず、やよい先生のサイン入り色紙と本だけが並んでいる。