どうぞ、ここで恋に落ちて

だけど『そうは言っても、出会いにはお見合いとか合コンとかもあるじゃない。そういう出会いが偶然に劣るとは言えないでしょ』という咲さんのひとことで、あの厚紙を置くことを決めた。

お見合いの写真台紙をイメージして、厚紙を二つ折りにし、中には本の表紙と店員が書いた紹介文とどの棚に置いてあるかが、店内の見取り図と共に記してある。

イベントコーナーの棚の隅に重ねてあるものだから、誰でも自由に興味のある一冊を探せるのだ。


「いろ……」


きっとあの厚紙の中で紹介されている本を探しているのだろうと思い声をかけようとすると、彼女に背後から近付く人影が見えて、私は慌てて口を閉じた。

本棚の影に身を隠し、こっそりふたりを盗み見る。


「それ、もう少しそっちだと思うよ」

「え……あっ!」


後ろから聞こえた声に驚いて振り返った色葉ちゃんは、自分に声をかけたのが高校生の橘くんだと知って飛び上がる。

色葉ちゃんが目をまん丸にしたままあまりに橘くんを凝視するので、彼は不安気に頬に手をやった。


「……何かついてる?」

「い、いえ。きれいです。とても」


わあー、わあー!

私は心の中で悲鳴を上げながら、勝手な親心でふたりのぎこちない会話を見守る。
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