どうぞ、ここで恋に落ちて
* * *
これは、スーパーヒーローが颯爽と登場する少し前の出来事。
街が茜色に染まり出す頃、一組の母娘が来店した。
くるくるとカールした長い髪のマダムがお揃いの髪型の女の子の手を引き、棚の整理をしていた私に声をかけてから、もう5分は経っただろうか。
「うちの娘が一生懸命、ハガキを買ってクイズに答えて住所を書いて、そこまでしたのに期限切れってどういうことなんですか? 何とも思わないんですか?」
「はい、あの……それは本当に、残念だったと思います」
「だったらなんとかしてくださいよ! お宅が売ってる雑誌の企画なんでしょ」
「あの、そうなんですけど、でもそれは……」
「それは、なんですか? うちの娘がかわいそうだと思わないんですか!」
もうっ、そんなのどうしたらいいのー!
私は頬がピクピクと痙攣しそうになるのを、必死の苦笑いで誤魔化していた。
要するに、この女の子はうちの書店で雑誌を購入し、懸賞に応募しようと思ったのだけど、準備を整えてハガキを出そうとしたときには締切を過ぎていたのだ。
女の子が買ったのは少女向けの月刊誌で、確かに3ヶ月前にはうちの棚に並んでいた。
だけどハッキリ言って、3ヶ月も前に購入した雑誌の懸賞が期限切れなのは当たり前で、こちらとしても対応のしようがない。