どうぞ、ここで恋に落ちて
橘くんは色葉ちゃんから台紙を受け取り、見取り図と本の題名を確認すると、くるりと周囲の棚を見渡して、少し高いところにあった本を抜き取って差し出した。
お礼を言って受け取る色葉ちゃんは、私が見たことないほどかわいい表情をしている。
「その制服、すぐ近くの中学のだよね? いつも同じ中学生の女の子がいるなって思ってたんだ」
「はい、そうです。あの、私も、たまにいるなって、話してみたいなって、思ってて」
お互い目が合わない甘酸っぱい会話に、思わず身悶えしたくなるほどだ。
私の心の中の応援に応えるように、色葉ちゃんがグッと両手を握って顔を上げる。
「あのっ、あ、も、もしよかったら、なんですけど……」
勢い込んで話し始めた色葉ちゃんを、橘くんの手のひらが遮った。
そしていつもは眉目秀麗でクールで賢い彼が、少し恥ずかしそうにしながらも、色葉ちゃんの顔を覗き込む。
「もしよかったら、帰り道に少し話さない? 俺、これから塾に行かなくちゃいけないんだけど、家の近くまで送るくらいはできると思うし。もしよかったら、だけど」
「はっ、はい!」
私が本棚の影で小さくガッツポーズをしたのと同時に、色葉ちゃんも大きく頷いた。