どうぞ、ここで恋に落ちて
よくお店に来てくれる常連のふたりが、初めて肩を並べて店を出て行く。
私はそれを何も言わずに黙って見送った。
日が落ち、店内に会社帰りのサラリーマンが増える頃には、ひとりの男性が来店し、ぐるりと店の中を一度見回してから迷わずイベントコーナーへ突き進んで行った。
スラリとした長身に、一見冷たく見えるほどすっきりと整った顔立ちをしている。
身のこなしが美しく、歳を重ねれば渋く素敵な男の人になりそうで、そんな彼をずっと近くで見ていられる女性は幸せに違いないと思ったけど、どこか浮世離れしているようで近寄りがたくもある。
しかしどこかに甘やかな雰囲気も漂わせていて、スーツの着こなしやオーラからもなんとなく圧倒されてしまうような、伊瀬さんや樋泉さんとはまた違ったタイプのイケメンだ。
咲さんと並んでレジに立ち、手元で作業をしながら、イベントコーナーへ向かったその男性をさり気なく観察する。
初めてご来店される方だろうか。
あんな印象深い人、一度見たら忘れないと思うんだけどなあ。
そんなことを考えていると、彼は数冊の本を手にすぐに踵を返し、レジに向かってくる。
咲さんのレジの前にドサリと置かれた本を見て、私は密かに驚いてしまった。