どうぞ、ここで恋に落ちて
突然起こった小さな騒ぎに店内が多少動揺し、ふたりに注目が集まる。
「もう、ほんとバカ。恥ずかしいからやめてよね」
顔を俯けるアリサさんは今にも泣き出しそうだけど、髪の間から見える耳は赤く染まっている。
私は固唾を飲んでふたりを見守った。
「アリサ、俺にもう一度だけチャンスをくれないか。散々傷つけたのも、今更言っても信用ないのもわかってる。だけどアリサが許してくれるなら、今度こそ他のどの男よりも、お前だけを愛して大事にするって証明したいんだ」
いつもおちゃらけた雰囲気だった乃木さんのこんなに真剣な言葉を、私は初めて聞いた。
乃木さんや私や他のお客様が、息を詰めてアリサさんの答えを待つ。
アリサさんは腕を掴む乃木さんの手を振り払い、プイッと顔を逸らした。
そして消え入りそうな声で答える。
「……勝手にしなさい」
私はホッと息を吐き出し、レジの周りでは小さな拍手が起こった。
「アリサ! 好きだ! 愛してる!」
「うるさい! 言っとくけど、そう簡単には認めないから」
途端に目をキラキラ輝かせる乃木さんは、一期書店で高らかに愛を宣言する。
私はそんな彼を見て苦笑し、やっぱり乃木さんらしいなあと思った。