どうぞ、ここで恋に落ちて

すぐさま頬が熱をもつ私に反して、樋泉さんは余裕の笑みだ。

この前彼が言っていた"全力モード"が継続中なのか、私に本音を話すことに少しずつ躊躇いがなくなってきているのかはわからないけど、とにかく顔の赤くならない樋泉さんには要注意だった。


だってこんなのむやみやたらにされたら心臓がもたないし!

私が樋泉さんの魅力にベタ惚れだってわかっててやるところがタチが悪い。

しかも、誰か他の女性に見られてその人が樋泉さんを好きになっちゃったらどうしようという不安がある。


私はぐるんと背を向け、強引に作業の続きを再開した。


「ま、まだまだ終わらないですからね」


樋泉さんが素直になるほどに、なぜか私が素直じゃなくなってしまう。

だけど彼には私の気持ちもちゃんとお見通しのようで、くすくすと笑っているのが背中越しにもわかった。


「近くのカフェで待ってるよ」


樋泉さんは私がコクリと小さく頷いたのを確認すると、スタスタと長い脚でレジへ向かう。

私はその後姿をこっそり盗み見て、海が決して月の引力には逆らえないように、私は彼にびっくりするほど惹かれてしまうんだということを再認識したのだった。
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