どうぞ、ここで恋に落ちて
こうやって戯けてみせなければ、私が気を遣いすぎることをわかっているのだ。
あれだけ探しても見つからなかった本だから、樋泉さんは『人伝て』と言ってごまかしていたけれど、苦労して手に入れたに違いないのに。
優しくて、誠実で、思いやりがあって。
恋愛に関してはとことん不器用っていう弱点があるくせに、それ以外のことは何でもスマートにこなしてしまって、紳士的で頼り甲斐もある。
エレガントでセクシーでハンサムで、そしてキュートな樋泉さん。
やっぱり彼には敵わない。
樋泉さんは、私にとって、私だけのスーパーヒーローだ。
私は堪らず、目の前の樋泉さんにギュッと抱きついた。
思いが溢れて涙が零れそうになる。
「洋太さん、ありがとうございます。本当に嬉しいです」
彼は私を受け止めて背中に腕を回しながら、もう片方の手で私の顎を持ち上げた。
抱き合い、目を合わせ、私が泣きそうになっていることを知ると困ったように眉を下げながら笑う。
「そうだな。できれば"くん"のほうがいいかな。敬語もいらないし」
樋泉さんがさり気なく条件を付け足してくるので、私はパチリと瞬いて吹き出した。