どうぞ、ここで恋に落ちて
露わになった胸を腕で隠し、逃げるように身体を捩る。
いや、本当に、これだけは気になって仕方がないの!
「よ、洋太くん! ほんとに、どうやったの!?」
照れ隠しもあって、半ば叫ぶような私があまりに必死なので、樋泉さんは一瞬だけ手を止めてくれた。
「うーん、ヒントは『プリマヴェーラ』かな。イタリア語で"春"って意味」
「う、うん」
「それでマスターは、自分の苗字からその字をとって、店の名前にしたんだってさ」
私はうーんと首を捻る。
ヒントが『プリマヴェーラ』のマスターってこと?
確かに文学的知識の豊富そうな方ではあったけど、まさか彼が春名栄太郎さんご本人ではあるまい。
だって彼の名前は"辰吉"だと言っていたし、春名栄太郎さんは私たちのおじいちゃんくらいの世代なはずで……。
「はい、時間切れ」
私が考えている間に自分も部屋着のシャツを脱ぎ捨てていた樋泉さんが、そう言って素肌を触れ合わせてくる。
「でも、もう少し……あっ」
もう少しで何かわかりそうなのに!
樋泉さんの器用な指先に肌をなぞられれば、別のことを考えている余裕なんてない。