どうぞ、ここで恋に落ちて
彼女の横に強引に立たされている乃木さんはバツが悪そうで、叱られたあとの犬のように萎れている。
どうしよう。
この人は乃木さんが本を買うことを、あまりよく思ってないってことかな。
どうやらふたりは私を待っていたみたいだけど、いまいち状況の掴めない私は、口をポカンと開けて女の人の鋭い視線に晒される。
「私とのデートを減らしてまであなたに会うために本屋に通うなんて、許せない。あなた、翔のことをどう思ってるの?」
「え!?」
彼女さんとのデートの回数を減らしてる?
しかも『あなたに会うために』って、乃木さん、うちの書店に通ってることをいったいどんなふうに説明したんだろう。
それに、彼のことを『どう思ってるの?』なんて聞かれても……。
彼女はきっと何か誤解しているんじゃないかと思うけど、とっさに頭が回らなくて、オロオロしながら乃木さんのことをチラリと伺う。
乃木さんはすごく居心地が悪そうで、完全に目が泳いでいた。
もう! 私だって、この状況を説明して欲しいくらいなのに。
「えーっと、ど、どうって……」
言い淀む私の態度を不審に思ったのか、彼女はグッと眉を寄せてさらに詰め寄ってくる。