どうぞ、ここで恋に落ちて
なんてこった!
俺は慌てて駆け寄り、彼女の横に跪く。
「ご、ごめん古都! やっぱり夜景の見えるレストランとかのほうがよかったかな。ガッカリしたならやり直すよ、一応指輪も準備してあるんだ」
俺はエプロンの下のトレーナーのポケットに手を突っ込み、用意してあった小さな箱を取り出してみせる。
古都がその箱を見下ろして、更に切なげに眉を寄せた。
俺は慌てて早口に言い募る。
「だけど俺、そういうところだと緊張して言い出せないと思ったんだ。伝えたいことはたくさんあるけど、全部言ったら長々としすぎるし、絶対途中で顔が赤くなって頭から吹っ飛ぶし。だから全然、古都のことを適当にしたとか、そういうつもりじゃないんだ」
古都がこちらに向き直り、首を横に振る。
何か言おうとして口を開くが、溢れる涙が邪魔をしてなかなかしゃべり出せないようだ。
そんな彼女の様子を見て、俺の頭は冷水を被ったように冷えていき、唇を噛んで項垂れた。
前にもこんな思いをしたことがある。
古都にヘタレだと叱られて、愛想を尽かされて捨てられるんじゃないかと思ったあの夜だ。
まだ早かったのかもしれない。
俺の側にいてくれる古都の気持ちを疑ったことはないが、第一彼女に結婚願望があるかどうかもわからないのだ。
古都は俺のお嫁さんだと、社会的に認めてもらえるならそれに越したことはないけれど、いちばん大切なのは彼女が隣で笑っていてくれることだ。
「ごめん。古都がもし、俺との結婚とか全く考えられないならそれでもいい。俺は構わないから、せめて今まで通り俺の側にい……わっ」
突然首すじに古都の腕が巻き付き、胸に飛び込んできた身体を慌てて受け止める。
古都は俺にギュッと抱きつきながら、背中にまわした手のひらでそこをポンッと軽く叩いた。