どうぞ、ここで恋に落ちて
「違うよ、洋太くんのバカ。鈍感。ほんとにヘタレ。嬉しいから泣いてるの」
「えっ」
涙声で怒ったように告げられて、思わず力が抜けた。
古都の身体を抱えたまま、その場にポスンと尻餅をつく。
彼女の細くて繊細な指が、そっと俺の頬に触れた。
俺の胸から顔を上げた古都は、大きな瞳に涙をいっぱいに溜めながら、花が綻ぶようにふわりと微笑んで俺の呼吸を止める。
「好きだよ。大好き。ヘタレなプロポーズも洋太くんらしくて全部好き。その指輪、私がいただいてもいいですか?」
俺は慌てて頷き、彼女の左手を取る。
手にしていた小さな箱の蓋を開け、心臓がバクバクと鳴るのを聞きながら、時間をかけて選んだ指輪を古都の指にそっと嵌めた。
左手の薬指にぴったりと収まる指輪を見て、古都が拗ねたように唇を尖らせる。
「なんでサイズぴったりなの? 本当に、こういうところは非の打ち所がないんだから」
手をかざして指輪を見ていた彼女が、チラリと俺に視線を移す。
少し赤い目元ではにかんだように笑う彼女を、俺はもう一度腕を回して抱きしめた。
この女性を、何に変えても守っていきたい。
その笑顔が決して絶えることのないように。
もしも彼女が悲しみの海に沈むようなことがあっても、俺は何度でも彼女の名を呼び、明るい月光の下に引き上げてみせる。
「古都」
「はい。なんですか」
古都は俺に身体を預けたまま、戯けたように答える。
俺は彼女の指輪をした左手を包み込んで、その指先に恭しく口づけた。
古都が小さく息を飲む。
「この先ずっと、あなただけを愛し続けます。何があっても決してこの手を離さない。だから、俺と結婚してください」