どうぞ、ここで恋に落ちて
4.手をつないで
叩かれることを覚悟してギュッと目をつぶり、小さく首を竦める。
「おい、やめろって……!」
「きゃあ!」
視界が真っ暗になると、乃木さんが彼女を制止する声と、彼女の驚いたような悲鳴が聞こえてきた。
それに続いて、頬を打つバチンという小気味よい音と、ガシャンと何かが地面に落ちる音。
様々な音が耳に飛び込んできたけど、私の身体には何ひとつ衝撃はやって来なくて……。
何が起こったの?
顔を俯けたまま、怖々と片目を開いてみる。
するとそこに現れたのは、チャコールグレーのスーツの足元とピカピカに磨かれた黒の革靴。
そしてそのすぐ近くには、細い銀色のブロウフレームのメガネがいびつに歪んで落ちていた。
「え……?」
見覚えのあるメガネにハッとして、慌てて顔を上げる。
「ひ、樋泉さん!?」
乃木さんの恋人と私の間に割り入って、私を庇うようにして立っていたのは、またしてもスーパーヒーローのように登場した樋泉さんだった。