どうぞ、ここで恋に落ちて
「なっ、何でここに? め、メガネ……あっ、そ、それよりほっぺが……!」
樋泉さんの頬は赤くなり、叩かれた拍子にメガネが外れて乃木さんの恋人の足元に転がっている。
彼の少し長めの前髪が、メガネのない目元に影を作る。
私は樋泉さんが自分の代わりに叩かれたことにパニックになって、目線はメガネと頬を大忙しで行ったり来たり。
落ち着いて、古都!
とりあえずメガネを拾おう!
バラバラに動こうとする頭と身体に命令して、地面に転がったメガネに手を伸ばす。
すると、伸ばした腕を掴まれて、そのまま横にグイッと引き寄せられた。
「古都」
フラついた身体を硬い胸に受け止められ、彼のセクシーで甘い声が耳元で私の名前を囁く。
心臓がギューッと縮まり、大きく跳ねて身体中の血液を沸騰させる。
私がピシリと音を立てて硬直すると、樋泉さんの大きな手のひらが慰めるように頭の上を優しく撫でた。
「もしかして、俺以外の男を好きになった?」
頭を撫でながら静かにそう問われて、私は催眠術にでもかけられたかのように、大慌てで首を振る。