どうぞ、ここで恋に落ちて
「そっか、よかった」
なんだか嬉しそうな樋泉さんの声に誘われて、ゆっくりと顔を上げた。
シャープな顎、高い頬骨、気品のあるまっすぐな鼻梁。
そして、いつものレンズ越しではない、長いまつ毛に囲われたアーモンド型の瞳が綺麗な弧を描いてる。
メガネをしていない樋泉さんって、初めて見るかも……。
だけどその瞳と目が合う前に、樋泉さんはスッと視線を上げ、立ち尽くす乃木さんの彼女に目を向けた。
「あの、ごめんなさい、私……驚いて、つい」
突然間に割り入って来た樋泉さんを勢いで叩いてしまった彼女は、さっきまでの熱も冷め、真っ青になっている。
樋泉さんは左腕で私を軽く抱き寄せたまま、そんな彼女に向かって色気たっぷりに微笑んだ。
「いえ、こちらこそすみません。古都が迷惑をかけてしまったみたいで。彼女には今夜俺から、たっぷりお仕置きしておきますから」
「え!?」
おっ、お仕置き!?
ていうかもうムリ! 耐えられない!
樋泉さんはたぶん、私を助けるためにこんな演技をしてくれてるんだろうけど……。
彼に何度も名前を呼ばれて、密着して、指の先まで心臓になったかのようにドキドキしてる。