どうぞ、ここで恋に落ちて
樋泉さんの色っぽさにクラクラなのは私だけじゃないみたいで、乃木さんの彼女ものぼせた顔でポツリと呟く。
「お、お仕置き、ですか……?」
見ちゃいけないものをそっと覗くときのように、期待の入り混じる小さな声。
樋泉さんはその声に、妖しい笑みを浮かべてコクリと頷いた。
「ええ。もう俺以外の男は、見ないようにと」
彼女はその場でフラリとよろめき、これが演技だとわかっている私でさえ、ヨロヨロと脚の力が抜けてしまった。
樋泉さんは普段からスマートでエレガントでハンサムで、こんな人は好きになった女の人の前でどんなふうに振る舞うんだろうって、こっそり想像したこともあったけど……。
樋泉さん、やり過ぎです!
「そうですか……あの、それでは、私はこれで……」
完全にポーッと赤い顔をした乃木さんの彼女は、もう一度「ごめんなさい」と言ってぺこりと頭を下げると、フラフラと駅の反対側に向かって歩いて行く。
その後を、呆気に取られていた乃木さんが慌てて追って行った。
イケメン、全世代の乙女に共通なり。
だけど今回は私にとっても刺激が強すぎて、まだドキドキが治らない。
樋泉さんってば、もう本当に、どれだけかっこいいんだろう。