どうぞ、ここで恋に落ちて
でもだからと言って「そんなの知るかー!」とは言えないので、とにかくどうにかして溜飲を下げて頂かなくてはいけないというわけだ。
店長と雑誌フロア担当の咲(さき)さんが、少し離れたところから間に入るタイミングを伺っている。
高坂古都(こうさか こと)、24歳。
ここ、一期書店の正社員で、一般文芸の担当者で、しかも今年で2年目だ。
ふたりの助けがなくても、このくらい対応できるようになりたいよ……!
こちらに非はないけれど、ここは一応謝るべきなのかもしれない。
「あの、本当に申し訳あっ!」
親子に向かって勢い良く頭を下げようとすると、突然スーツを着た背中に視界を遮られ、思い切りおデコをぶつけてしまった。
い、痛い……!
ぶつけたおデコを押さえながら目を上げ、後ろ姿だけでわかる彼の登場に呼吸さえ奪われる。
ああ、どうしてあなたはいつもピンチになると現れるの?
やっぱりスーパーヒーローに違いない。
私からは頼り甲斐のある背中しか見えないけれど、彼はきっと、母娘に向けて誰もが見惚れる穏やかな微笑みを浮かべているはず。
「こんにちは、ちょっとすみません」