どうぞ、ここで恋に落ちて
楽しかった……?
樋泉さんは気を遣って仕方なく私に付き合ってくれただけで、だから終始話題もなく黙っているんだと思ってたのに。
こんなことを言うのは失礼かもしれないけど、小さく声を弾ませて笑う樋泉さんはいつも通りセクシーでエレガントでハンサムで、そして……。
とてつもなくキュートだ。
知り合ってからの1年の間、彼をかっこいいと思ったことは数え切れないほどある。
だけど、こんなに胸をきゅんとさせられるのは初めてのこと。
鼓動が唐突に跳ね上がり何も反応できずにいると、樋泉さんはキョロキョロと辺りを見回し、少し離れたところにある電光掲示板に目を留めた。
「あ、ちょうど電車が来るみたいなので」
「えっ」
ボケーっとしているうちに樋泉さんの手がスルリと離れ、すぐにその背中が遠ざかる。
「お、お気を付けて!」
私は慌ててその後ろ姿に声をかけたけれど、構内の喧騒に紛れて彼には聞こえなかったみたいだ。
振り向かずに改札に吸い込まれていく樋泉さんが見えなくなるまで見送ってから、ふと右手に視線を落とす。