どうぞ、ここで恋に落ちて
まだほんの少し残るぬくもりの正体を確かめるように、ギュッと握って開いてみた。
頬が急激に赤く染まるのを感じて、慌てて俯き両手で顔を覆う。
樋泉さんは一期書店の中でも外でも、関係なく私を助けてくれて。
誰がどう見ても平凡女子の私の手を取って一緒に歩いてくれて。
気の利いた会話のひとつもできなかった私に『ありがとう』と言ってくれて。
そして少しはにかみながら、手をつないで歩いたことを『楽しかった』と笑ってくれた。
もう、こんなの……。
「好きになっちゃうよ」
ポロリとこぼれた本音に自分でも驚いて、ハッと顔を上げる。
すぐ横を通り過ぎた人に怪訝な目で見られて恥ずかしくなり、急いで出口に向かって歩き出した。
あの超ハイスペックでパーフェクトな男性を、どこをとっても平々凡々な私が好きになる?
まさか!
報われない恋の予感にブンブンと頭を振るけれど、レンズ越しではない樋泉さんの瞳は魅力的すぎて、どうしても瞼の裏に引っ付いて離れない。