どうぞ、ここで恋に落ちて
好きな本の傾向が似ているせいか、私にとってはここで働くようになってからいちばん最初に仲良くなったお客様だ。
色葉ちゃんのもっとも好きなジャンルは海外ファンタジーなんだけど、あまり多く取り揃えられる分野ではないし、本当に熱中できる一冊を探すのは大変だと思う。
たとえ私が『これを読んで欲しい!』と思うものを見つけたとしても、書店が仕入れる本の種類と冊数はある程度決められていて、独自の品揃えをすることもなかなか難しいのだ。
だから別のジャンルになってしまうことが多いけれど、私はなんとか色葉ちゃんが好きになってくれそうな本を思い浮かべる。
色葉ちゃんはちょっと現実離れしていて、ほどほどにロマンチックだけど硬派なお話が好きなんだと思うんだよね……。
「あっ! そう言えばね、この前色葉ちゃんにオススメしたいなって本があったの」
「ほんと?」
パアッと目を輝かせた色葉ちゃんに頷いて、思い当たる本が置いてある場所へ案内する。
私が目指したのは、一期書店の中でも壁際にまとめられている海外古典文学のコーナーだ。
平日の昼下がりで、あまり混んでいない時間帯。
もともと賑わうことのないスペースだけど、その日はそこに先客がいた。