どうぞ、ここで恋に落ちて
「私、今日はコレにする」
色葉ちゃんはそれがすごく思い切った決断であるかのように、力強く宣言する。
「あ、本当? ありがとう」
私は彼女の様子に少し驚きながらもこくりと頷いた。
なんだか珍しいな、こんな色葉ちゃん。
優しくて控えめで落ち着いた子だと思っていたから、目をキラキラさせて頬を上気させる彼女は、突然違う女の子に生まれ変わったみたい。
色葉ちゃんは選んだ本を胸に抱いて、とっても嬉しそうに微笑んだ。
その表情につられて私も嬉しくなる。
色葉ちゃんも、この本を好きになってくれるだろうか。
そうなったら、いつもよりはやく購入を決めたこの本には、一目惚れだったと言えるかもしれない。
私はそんなふうに、色葉ちゃんの恋が今この瞬間に始まっていることを密かに祈る。
「古都ちゃん、私、夏休みはいっぱいお店に来るね」
お会計を済ませた後、どこか浮かれたような色葉ちゃんはそう言って私に手を振り、一期書店の出口をスキップしそうな勢いでくぐって行った。