どうぞ、ここで恋に落ちて
店の内装はシックな紺と桜色でまとめられていて、それらがあたたかな間接照明に照らされている。
かわいいけれどちょっと色っぽくて、デザインもインテリアもすごく趣味がいい。
店内にはいくつかのボックス席もあるようだけど、それぞれの間にさり気ない仕切りがあったり少し離れていたりして、入り口からは全てを見渡すことはできなかった。
カウンターには一人掛けの席が全部で8席あり、紺色と桜色の椅子が交互に並んでいる。
私は桜色のほうを選んで腰掛けた。
「いらっしゃいませ。何にしますか?」
私と伊瀬さんがひとしきり店内を見回して落ち着くと、カウンターの中に立っていた男性が微笑みながら声を掛けてくる。
30代半ばくらいに見えるけど、スタッフは彼だけのようで、この人がこのバーのマスターなのかも。
すっきりとしたパーツが揃った端正な顔立ちで、落ち着いた優しそうな雰囲気の男性だ。
「俺、シャンディで。古都ちゃんは?」
「えーっと、私は……」
基本的にビールが好きな伊瀬さんは即決でシャンディガフにしてしまったけど、こんなおしゃれでメニューの置いてないようなバーに来たのは初めてで、私はとっさに何を頼んだらいいか思い付かない。