どうぞ、ここで恋に落ちて

そして全身からハートをぴゅんぴゅん飛ばしながら、私に文句を付けていたことなどさっぱり忘れてしまったかのように満面の笑みを見せ、例の雑誌の今月号を手にレジへ向かう。

お会計のあとはもう一度こちらに向かってぺこりと頭を下げ、最新号をゲットして嬉しそうな娘の手を引いて帰って行った。


そんなこんなで彼は、登場からわずか数分で綺麗にその場を収めてしまったのだ。

イケメン、全世代の乙女に共通なり。


彼は親子の姿を見送るとくるりと振り向いて、その横顔に釘付けな私を見つけ、いたずらっぽく笑う。


「ちょっと反則だったかな」



* * *



彼は樋泉洋太といって、私の勤める一期書店から徒歩20分程度のところに本社ビルを構える出版社『栄樹社(えいじゅしゃ)』からやって来る営業マン。

29歳、指輪ナシ。

だけど私にとって樋泉さんはとにかく憧れのスーパーヒーローで、彼女になりたいとか、そんなおこがましいことを望めるレベルじゃない。


だって彼は涼しげな目元と薄い唇が色っぽくて、高い鼻と頬骨からなるすっきりした顔立ちに気品があって、すらりとした肢体でスーツを着こなす"超"が付くほど大人なイケメンなのだ。
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