どうぞ、ここで恋に落ちて
それに引き換え私は顎先で揃えたふわふわしたボブで、癖っ毛だし地毛でチョコレートブラウンみたいな色をしているし、そのせいでどうがんばっても大人っぽくならない。
くるんと上を向いたまつ毛とふっくらとした涙袋で飾られた猫のようにパッチリした目も、学生の頃はよかったけれど、今では子どもっぽく見られる要因だと思う。
それに加えて、私の鼻梁は樋泉さんのように高くて美しいものとは程遠いし、おまけに背も低い。
コミックとライトノベルのフロア担当の伊瀬(いせ)さんには、いつも高校生みたいだなんてからかわれるほどで、できることなら樋泉さんのもつセクシーさを分けて欲しい。
ちなみに1年4ヶ月前に就職した一期書店春町店は70坪程度の比較的小規模な店舗で、正社員は3人だけ。
よくしゃべる陽気なおじさん店長の北村さんと、コミック・ラノベ担当の伊瀬圭介(けいすけ)さん、それから文芸担当の私。
そして来月は、お店で展開するイベントコーナーの企画を私が担当することになっている。
「あの、樋泉さん。実は来月のイベントコーナーで、ミエル文庫を取り上げようと思ってて」
「あ、本当ですか?」
棚のチェックをしていた樋泉さんに声をかけると、彼は一度手を止めて、吸い込まれそうなほど黒く魅力的な瞳を私に向けた。