どうぞ、ここで恋に落ちて
「そ、そんなことないです! 全部樋泉さんのおかげなんですから、そんなふうに言わないでください。樋泉さんは私の尊敬する人ですから!」
……プラス、好きな人になっちゃったけど。
そのことはひとまず置いておいて、グッと身を乗り出して力強く宣言する。
樋泉さんは私の『尊敬する人』という言葉に目を丸めて、くすぐったそうな笑みを浮かべた。
「頼むよ。俺は別に、そんな大した人間じゃないし。高坂さんの前だからいつもかっこつけたくなってるだけで」
そう言って、目尻を下げてクスクスと笑いながら立ち上がる。
ま、待って……。
それって、どういう意味ですか?
樋泉さんの何気ないひとことに心臓が動きを止め、キューっと小さく縮まって私の胸をキュンとさせた。
彼に他意はないとわかっているのに、都合のいいように解釈して、勝手に喜んでニヤニヤと頬が緩んでしまいそう。
それをごまかすために眉間に力を込めてパチパチと瞬きをしながら、すぐ近くにある膝頭に視線を落として唇をギュッと引き結ぶ。
すると、樋泉さんの足元にしゃがみ込んだままの私の目の前に、大きな手のひらが差し出された。