どうぞ、ここで恋に落ちて

「え……?」

「春町駅から電車一本で行ける範囲には、けっこう個性的な書店が多いんですよ。小さな古本屋もあれば、駅の反対側にある『小夏書房』のように大型の書店まで本当に様々で。実は俺も、気になってたけどまだ行けてないところがあって」


フリーズする私には気が付かず、樋泉さんは珍しくちょっと浮かれているようなご様子。

いつも落ち着いていて大人の雰囲気が漂う樋泉さんだけど、こんなふうにはしゃいだりもするんだなあ……じゃ、なくて。


なんだか頭が付いていかないんだけど。

樋泉さんの言う"敵情視察"って?

私の理解が正しければ、『一緒に本屋を巡りませんか』というお誘いに聞こえる。


「あ、でももしかして、なかなか休みが合わないかな。俺の方で平日に時間つくれたら……」


樋泉さんはうーんと唸って考え込む。

ぶつぶつと小さく呟きながら、土日に休みを取りにくい私と時間を合わせられるように、予定を調整しようとしてくれているみたい。

つまり彼は、私からのお礼として『行きたい本屋があるから付き合って』って言ってるんだ。


それってお礼っていうより、私への更なるご褒美じゃないですか!
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