どうぞ、ここで恋に落ちて

樋泉さんも合わせて立ち止まり、メガネの奥から背の低い私を見下ろしている。

私は小さく息を吸い込んだ。


「先週の金曜日の夜、プリマヴェーラで一緒にいた方は恋人ですか?」


思い切ってそう尋ねると、樋泉さんが形のいい双眸をパチパチと瞬かせる。

こんなことを聞くのは少し勇気がいるけれど、私が彼の誘いを迷惑がっているんじゃないかって誤解されるよりはずっといい。


だけど私の突然の質問に樋泉さんがあんまり目を丸くするので、沈黙を埋めるようにペラペラとしゃべり続けてしまう。


「あの、一緒に本屋さんをまわれるなんて、ほんとにすごくすごく嬉しいです。樋泉さんと一緒なら、きっととても楽しいと思うんです。そのためなら都合なんていくらでも付けます! だけど、もしあの綺麗な女性が樋泉さんの恋人なら、その……」


こみ上げる恥ずかしさと切なさにサンドイッチにされる苦しさから、頬がカッと熱くなる。

樋泉さんは、勢いよくしゃべりだした私に驚いてポカンとしたかと思うと、今度はさっきよりも大きくあからさまに顔を逸らして、手のひらで口元を覆い隠してしまった。

その仕草にさっきまでの勇気がどんどん小さくなり、私はプシューッと空気が抜けて縮んでいく風船のように、俯いて身体を小さくする。


「その、えっと……ごめんなさい」
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