どうぞ、ここで恋に落ちて
だけどそれも今、少しずつ変わろうとしている。
「樋泉さんは覚えてるかな」
この本が、樋泉さんと私をつないだきっかけだったこと。
私が好きだと言った本を読んで、自分も好きになったと言ってくれて、そうして私に書店員でいることの喜びを感じさせてくれたこと。
私はきっと『砂糖とスパイス』を手にする度に、読書を好きになった頃の気持ちと、樋泉さんを好きになった頃の気持ちを、同時に思い出すだろう。
中学生の頃に出会った本も、今こうして新しい意味を持つ。
私は新たな思いを背負った表紙をしばらく眺め、勢いをつけてベッドから立ち上がると、本棚のいちばん目に入りやすいところに『砂糖とスパイス』を置いた。
そしてもう一度鏡の前に立ってから、弾けるような太陽の元へと飛び出した。
* * *
待ち合わせは、春町駅に午後0時。
私が駅前の広場に着いたのは40分前で、それから近くのカフェに入って時間を潰し、30分後に戻って来たときには、そこにはもう樋泉さんが立っていた。
樋泉さんは駅の側にあるレストランを予約しておいてくれたみたいで、私たちはお店を探したり並んだりすることもなく、書店を巡る前にひとまずランチをすることになった。