どうぞ、ここで恋に落ちて
それぞれランチコースを注文し終えてから、私はゴクリと息を飲んで彼を呼んだ。
「ん?」
樋泉さんの優しくて色っぽいアーモンド型の双眸が、長く上品なまつ毛を瞬かせて私を捕らえる。
ああ、やっぱり。
今日の樋泉さんは反則気味に魅力的で、その引力はいつもより3割増。
黒い瞳がまっすぐに私を捕まえると、間にアレがないだけで、なんだかソワソワしちゃう。
その原因はきっとコレに違いない。
「どうして……」
私は思い切って、待ち合わせ場所で会ったときからずっと気になっていたことを口にした。
「どうして今日は、メガネをしていないんですか?」
そう、今日の樋泉さんは細身のブロウフレームのメガネをしていない。
彼はいつもあのメガネをしていたし、そうではない樋泉さんを見るのはこれで2回目だけど、1度目は私のせいでメガネが壊れてしまったからだ。
迷惑をかけてしまったから、せめてものお詫びにと視力の悪い彼の手を引いて駅まで送り届けた夜。
もっとも、あの夜の樋泉さんはなかなか目を合わせてくれなかったし、話しかけてもくれなかったし、メガネのない素顔を直視したのは恋に落ちたあの瞬間だけだけど。