どうぞ、ここで恋に落ちて

つまり、樋泉さんがメガネをしているのは"お仕事モード"への切り替えのためで、普段は視力もいいからメガネは必要ないってこと?


「それじゃあ、あのときは……」


手をつないで駅まで歩いた夜、本当は私のサポートなんていらなくて、いつも通り不自由なく見えてたの?

嫌な予感にスッと冷える指先を、手の中にギュッと握り込む。

心なしかシュンとした樋泉さんは、バツの悪そうな顔で小さく頷いた。


「すみません、その……言えなくて」

「そ、そうだったんですか」


ガーンとショックを受けた私は、ふっとテーブルの上に視線を落として俯いた。


やっぱり、要らぬおせっかいだったんだ。

きっとものすごく迷惑だったに違いない。

本当に私、余計なことしちゃった……。

だからあの夜の樋泉さんは無口で、なかなか目を合わせてくれなかったんだ。

だけどそれなら、言ってくれてもよかったのに。

樋泉さんが優しいから、あのときすぐには言わなかったのかもしれないけど。


恥ずかしくて、申し訳なくて、じわじわと浮かびそうになる涙を俯いたままで必死に誤魔化す。

ふたりの間に気まずい沈黙が溜まり始めたとき、ちょうどウエイターさんが最初の料理を運んできた。
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