どうぞ、ここで恋に落ちて

「たとえ好意を寄せてもらって付き合うことになっても、いつもすぐにフられる。『想像してたのと違った』とか、『洋太の気持ちがわからない』とか。俺としては、努力してるつもりなんだけど……その繰り返しで、相手とちゃんと向き合おうと思えば思うほどダメになる」

「…………」


私は口を閉じてギュッと唇を引き結ぶ。


け、けっこう深刻なの?

樋泉さんはきっと恋人に対しても大人で紳士的で、いつも優しく余裕を持ってリードしてくれるような人なんだろうって思ってたのに……。

完璧な樋泉さんのイメージがガタガタと音を立てて崩れていくのがわかる。


ほんとにほんとに、恋愛下手なの?

こんなにイケメンなのに?


初めて知った、弱点を持つ樋泉さん。

いつものメガネをしていない彼が、眉をハの字にして力なくポツリと呟く。


「伝わらないことが、ひどく怖い」


その声は"欠点のないスーパーヒーロー"のイメージを完全に打ち砕いたけれど、なぜか私をガッカリさせることも幻滅させることもなく、ギューッと胸の奥を締め付けた。

何も言わずにジッと見つめていると、綺麗な瞳をした樋泉さんと目が合って、彼が困ったように微笑む。


「ごめん、引いた?」


私は勢いよくブンブンと首を横に振る。

『好きな人とうまく話せない』だなんて。

ずっと完璧だと思っていた人にも、ほんのちょっと情けない弱味があったらしい。
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