どうぞ、ここで恋に落ちて

だけどそんなことで嫌いになれるほど、簡単に好きになったわけじゃない。


いいじゃない、ハイスペックなイケメンが恋愛事に関してはちょーヘタレでも!

ちょっと……いや、かなり残念な弱点かもしれないけど、人は恋に落ちる瞬間を選べなければ嫌いになる瞬間だって選べなくて、結果的に私はこんな彼も素敵だって思っちゃう。

誠実で、優しくて、樋泉さんらしくて、そして彼をさらにキュートで魅力的にする。


樋泉さんがせっかく打ち明けてくれたんだから、少しでも背中を押してあげたい。

私はテーブルの上でぎゅうっと手のひらを握りしめて、力強く身体を乗り出した。


「樋泉さん、今好きな人がいるんですね?」

「えっ、なっ、だっ……」

「大丈夫です! わかってます」


これって要するに、私への恋愛相談でしょ?

私には、樋泉さんの好きな人に心当たりがあるもん。

こんなふうに顔を赤くして慌てる樋泉さんを見たのは、これまでに一度だけ。


プリマヴェーラで、すずか先生にメガネをとられたときだ。


今までの話を合わせて鑑みると、樋泉さんのあのときの慌てようも納得できる。

私が見た限りすずか先生も樋泉さんに好意があるんだと思うけど、樋泉さんはきっと、これまでの恋人と同じように気持ちをちゃんと理解してもらえなかったらどうしようって不安なんだろう。

そう考えるとすべてに合点がいく。
< 89 / 226 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop