どうぞ、ここで恋に落ちて
「あ、そうなんですか、大学の」
大学時代の樋泉さんって、どんな感じなんだろう。
隠れ家みたいな小さな本屋さんに入り浸る、気品漂うイケメン大学生……。
私はつい、日の光が差し込むほの暗い店内で、本棚の前に佇む学生の頃の彼をほわほわと想像する。
きっとかっこいいんだろうなあ。
「そうそう、洋太、大学生の頃はすぐ側の安いアパートに住んでたもんな。もっとも、今も近くのマンションに……あれ、そういえば」
のっそりと店の奥に向かっていた基さんが、突然くるりと振り返る。
大きな目を見開いて熱心に私と樋泉さんを交互に見比べるので、私は困惑して首を傾げた。
チラリと樋泉さんを見上げると、彼の形のいい眉も怪訝そうに片方だけ弧を描いている。
「……メガネ……一期書店って……もしかして!」
ぶつぶつと口の中で何事かを呟いたかと思うと、基さんのパッチリとした瞳がいきなりキラキラと輝き出す。
そしてさっきまでの気怠げな雰囲気は何処へやら、私たちの元へピューンと戻って来ると、私の両手を取ってギュッと握った。
「え? あの……?」
混乱する私の顔を好奇心いっぱいに覗き込み、そのまま握った手を勢いよくブンブンと振る。