どうぞ、ここで恋に落ちて
「高坂さんね! 一期書店のね!」
「は、はい……って、わ!」
突然テンションの高くなった基さんに戸惑いながら頷くと、彼は握った両手をグッと引っ張った。
そのまま私の手を引いて、ぐんぐん店の奥に進んで行く。
そして簡素な机と丸椅子が置いてあるレジの近くまで来て立ち止まり、本棚の少し高いところに横向きに差し込まれている文庫本を指差した。
「高坂さん、あの本好きでしょ?」
「え?」
目を眇めて見上げると、基さんが指差す先にあるのは、新訳版の『砂糖とスパイス』だった。
背の低い私では背伸びをして手を伸ばしても届くかどうかというところに置いてあるけど、基さんか、もしくは樋泉さんなら簡単に手が届くだろう。
「な、なんでわかるんですか?」
私は驚いて目を丸くする。
びっくりしてパチパチと瞬きをする私を見て、怪しいほど得意げな表情の基さんが二ヒッと口角を上げた。
「そりゃあわかるよ。俺から見たら、洋太なんてかわいいくらいわかりやすい」
ん? 樋泉さん?
私には基さんの言ってることが尚更わからなくなって首を捻る。