僕の許嫁(仮)が怪しすぎる!
「はいはい、照れなくてもいいぞ。…取り合えず私は腹が減っている。何か食べるものはないのか?」
な…何て図々しい女だ!!
「つまり、あれだ。うちのじいさんたちが勝手に決めた事なんだろ?もう亡くなってるんだから、その話はなかった事に出来ないわけ?」
僕は朱羅に散らかされた台所を片付けながら、提案した。
だって、おかしいだろ?
結婚って、一生の問題だぜ?…他人にどうこう言われるもんでもないし、本人たちの気持ちが大切なわけだろ?
「朱羅…だっけ?お前、まだ中学生くらいだろ?結婚とか、相手が僕で本当にいいのか?他に好きな奴とかいないの?」
戸棚から、カップ麺を取り出し、お湯を注いでやった。
朱羅は椅子に座り、脚をパタパタさせながら、僕を不思議そうに見た。
「だって、朱羅の夫は、藍って決まってる。」
「だーかーらー…、」
疲れるな。
マジで頭おかしいのか?
「藍が何も知らないだけで、うちでは昔からそう決まってるんだ。…それに私は中学生ではない。立派な高校1年生で、16歳。つまり結婚出来るんだ。」
はあ、そうですか。
「何も分からんようだから、カップ麺の完成を待つ間に教えてやろう。…なぜ、我らが許嫁になったのかを。」
そして、朱羅は語り始めた。
その、信じろという方が無理な、驚くようなエピソードを。
◇◆◇◆◇◆
青田 蒼一朗、そして妻の葵。
それが僕の祖父母。
すでに他界している。
一方、
赤井 円治(えんじ)、妻の茜。
それが朱羅の祖父母の名である。
この二組の夫婦は、それぞれ見合い結婚で、まだ年若く、子供がいなかった。
家が隣同士だったため、交流が深く、何をするにも一緒だった。
ある日、たまにやって来る行商人から、葵と茜は奇妙な本を買った。
それは、今で言うところの、おまじないや、占いが載った書物で、二人はすぐに夢中になった。
中でも、恋占いや、西洋風の星占いは面白かった。
「茜ちゃん、私ね、試したいまじないがあるの。」
「葵ちゃんの考えていること、分かるわ。私も同じこと、考えてるもの。」
二人が気になっていたのは、「こつくり」というまじないであった。
当時の女性は、結婚したら、子供をたくさん産むのが家のためであり、はてはお国のためであると教えられていた。
まだ、一人も子供のいなかった二人は、内心、焦りを感じていたのだ。
このまじないをすれば、きっと子宝を授かるだろう、と信じていた。