軍平記〜その男、村政〜
元伊達家筆頭家老、貴場藤十郎
反乱から17年。
今や青葉国の全ては貴場一族が牛耳る物となった。
仙台城は絢爛に建て替えられ、贅の限りを尽くした。
領民は重い税に苦しめられていた。
北の大蝦夷国にも圧倒的な戦力で侵攻し、南側に甚大な被害を与えていた。
青葉国の強さは恐怖である。
絶対なる軍法による統制。ただ、侵略した国の土地は手柄次第では莫大なものだった。
青葉国は軍事力を武器にますます領土拡大に力を注いでいった。
藤十郎直属の暗殺部隊「極衆(ごくしゅう)」、事前に敵国に諜報を行い、軍を統率する将軍を暗殺、離反などを行う部隊だ。
各々が武芸に長じ、並の武将などはとても歯が立たない程の猛者達である。
貴場藤十郎は身寄りの居ない子供や、金で買った子供などを育て、部隊を作った。
絶対の忠誠心である。
極衆を取り仕切る、頭目の一極(いちごく)は、大恩ある藤十郎の為、あらゆる事を引き受け、実行してきた。
赤城国の要人を暗殺すべく多数の刺客を放った。
そこで、ある事を耳にする。
元青葉国の国主嫡男、伊達総司が、松代国で生きているという噂を。
藤十郎に話すと、是が非でも見つけ出し、必ず暗殺せよと命を受ける。
藤十郎が、長年探してきた伊達の生き残り。
何がなんでも殺したいのである。
彼岸花の郷から連れ去って、極衆に加えた京極を松代に放つ。
京極と村政は、幼馴染みだった。
野山を走り、川遊びをし、虫や鳥を採って遊んだ仲間だった。
藤十郎達の襲撃に遇い、京極の家には火を放たれ顔面に酷い火傷をおった。
松代に村政の姿を発見した京極は、総司の存在を確信し、仕掛けた。
村政は声で京極が竹馬の友である事に気が付いた。名も京極と名乗っていると、風の噂で聞いていた。
対峙した二人は様々な思いが交錯したであろう。
だが、勝負の世界は一瞬。
喜びも悲しみも、何も話せず戦いのなかで語るより他はなかった。
倒れた京極を哀しい目で送った。村政はまた、心に深い悲しみを刻み、笑い続けるのだった。