軍平記〜その男、村政〜
村政は、本陣に向かっていた。
向かう先から何かが近づいてくる。
沢山の足音。山へ向かっているようだ。
木の上に身を隠す村政。
見渡せば見覚えのある顔がある。
高山銀次郎の姿が見えた。
「動いたか。」
村政は高山を追う事にした。
軍に紛れ、随行する。
山の麓まで森を一列の隊列で進む。
なにやら隊の後尾が騒がしい。
「司令官様!列の後方で何かが起きた模様です!」
「む!敵襲か!」
高山は振り返る。
そこで目にしたものは、後続が霞む程の血煙だった。
微かに後方で悲鳴が聞こえた刹那、刀を握ったままの腕だけが高山目掛け飛んできた。
その腕を槍で払う高山。
「一体何が起きているのだ!!」
すると後方から一人の血まみれの兵士が走って来た。
「報告!青葉国の刺客らしき男が、後方で我が隊に襲い掛かっています!」
「なにっ!青葉国だと!?で、何人居る!」
「そ、それがたった一人です!!」
「一人だと!?」
高山は息を飲んだ。たった一人にこの部隊が動揺させられるとは、思いもよらなかった。
「お、おのれ青葉国め!裏切ったな!」
高山は、馬を走らせ後方に向かう。
総司令隊の後方で暴れていたのは、村政だった。
自ら青葉国の刺客と名乗り、混乱させていた。
松代軍兵士の武器を奪い、次々に倒していく。
獣のような動きである。
一振りの刀が四、五人を切り伏せる。切れなくなればまた次の刀を奪い、兵達を凪ぎ払う。
槍を抱え気合いと共に突き刺す。団子のように兵士を貫く。
馬には拳で打撃を加えて気絶させる。並の腕力ではない。
蹴りは兵士の頭を潰す事など造作もないように繰り出す。
まさに体の全てを使い戦う。
蛮勇に見えるその戦いぶりの中、村政は笑う。
阿修羅の如く笑う。
隊列はみるみるうちに崩れ去った。
「貴様か!!」
高山が後方まで下がってきた。
高山目掛けて槍が飛ぶ。
槍を叩き折る高山。
「この青葉国の犬めが!こっちだ、かかってこい!」
高山は村政だとは知らない。
砂塵と血煙の中に一匹の獣が高山に眼を向ける。
真っ直ぐに高山目掛けて走り出す。
「うおおおおおっ!!」
村政の顔から笑いは消えている。
ただ、目の前に居る獲物を刈り取るが如く一点を見つめ襲いかかる。
高山はあまりの早さに目がついて来ない。
呆然と見るしかなかった。
ズダン!
高山が崩れ落ちるように馬から落ちた。
何も出来ないまま、高山は倒れたのである。
村政は休むことなく、部隊を壊滅させていく。
松代軍は村政一人に、実に7割もの兵隊が倒された。
しかし、青葉国、松代国、赤城国の戦いは始まって未だ七日も経っていない。