軍平記〜その男、村政〜
脅威。
青葉国に斥候を放った松代軍は、その凄まじい進撃振りを見た。
赤城国本軍の騎馬隊が、あっさりと大将首を取られ、守りの砦まで後退させられていた。
青葉国の火気、武装、武器。その圧倒的な違いと軍法の完全統率。
それが青葉国の本当の武器だった。
松代軍の斥候は、まざまざと見せ付けられた。
「ひ、ひとまず今の状況を本陣に報告するのだ。」
斥候の一人が言った。
「今のところ裏切りの事実は確認出来ていない。まだ、断定は出来ないが。」
斥候は立ち上がり、本陣に向かおうとした。
ぐどっ!
斥候が倒れる。
首に強烈な一撃を食らったようだ。
「何事だ!!」
「解りません!突然倒れました!」
「警戒しろ!何者かが近くに居るぞ!」
次の瞬間、また斥候が倒れる。
「何奴!出てこい!」
「斥候、ご苦労様です。ご苦労様次いでに、死んでいただきましょう。」
木の陰から姿を表したのは村政だった。
「なんだ貴様は!まさか斥候をやったのは貴様か!!」
「まあ、そんな所ですね。色々とありますんで。」
飄々とのたまう村政。
「くっ!殺されてたまるか!貴様が死ね!」
斥候が村政に襲い掛かる。
苦もなくかわす村政。
かわすと同時に急所に一撃を入れる。
「ぐはっ!」
倒れる斥候。
「ふぅ。」
「まったく、面倒な奴等だ。」
三人の斥候を倒した村政。
村政は気絶させた一人の松代軍の斥候を縄で縛り上げた。
赤城国は軍の立て直しを図るべく、再編成を行っていた。
松代国の国境に居る赤城軍は快進撃を続けている。
総勢は三万に編成されている。
一方、青葉国との国境に居る赤城軍は既に本軍主力騎馬隊、一万が壊滅。
指揮機能を失っている。
新たに指揮官の到着を待つことになった。
今時点で、青葉国国境の赤城軍は二千。補充に一万が合流予定である。
一方の青葉軍三万はほぼ無傷。後方から補給線も確保されている。
二国を同時に相手にする赤城国は、松代防衛軍が頼りである。
割ける兵力も大きくない。
松代、青葉連合軍の狙いはまさにこれだった。
独自戦術で一国対一国では他国の侵略に対して無防備になる。
連合を組めば防衛と攻撃に専念できる。
利害は一致し、今回の戦に成ったわけだ。
「原田様、この近くの百姓が松代国の斥候を捕らえたと申しておりますが。」
村政は原田回悠に松代国の斥候を一人連れてきていた。
「なんと。松代の斥候を?なぜ、赤城ではなく、我が青葉に放ったのか?」
原田は村政に聞く。
「はは。何でも松代国軍に、青葉国の間者が入り込みまして、本陣の指揮官が討ち死になさったそうです。」
「なんと!誠か?」
近習に原田は聞く。
近習たちは首を横に振る。
「仮に間者を放ったにしろ、松代軍司令官や兵士を討てる間者など極衆にも居りますまい。」
近習の一人が言った。
「確かに。何かの間違いではないか。その方、その斥候を放せ。訳を聞こう。」
村政に捕まった斥候の縄をほどく。
しかし、斥候は力無く地面に倒れた。
斥候はすでに息絶えていた。
村政は原田に、「もう、連れてくる時から虫の息でしたので・・・。」
ひれ伏して答える。
「うむ、松代国にその様な疑念が生じているのは由々しき事だ。今回の戦略では松代の力が欠かせない。」
「至急、松代に使者を向かわせ、二心なき事を伝えるのだ。」
近習に告げる原田。
「その方、名はなんと言う。」
村政に原田が訪ねる。
「はい。この近くで百姓をしております太兵衛(たへえ)と、申します。」
村政は平伏したまま、原田に言った。
「大義。我が隊に加える。太兵衛、その方それでよいか?」
太兵衛と名乗る村政に聞く。
「ははっ!是非お願い致します。心命をとしてお使いいたしまする!!」
平伏したまま村政は言う。
にわかに口元に笑みを浮かべたが、顔を上げたときには神妙な顔に戻っていた。
総司と村政の復讐は、いよいよ開始されるのである。